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東京地方裁判所 昭和41年(手ワ)3030号 判決 1966年12月20日

原告 株式会社熱海荘

右訴訟代理人弁護士 田之上虎雄

被告 荒木辰之進

右訴訟代理人弁護士 福島幸夫

主文

被告は原告に対し、金三〇万円及びこれに対する昭和四一年七月一日以降完済までの年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は、被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人の主張

一  原告は、次に記載する約束手形(以下単に本件手形という)の所持人として満期に支払のため支払場所に呈示したが支払拒絶を受けて現にこれを所持するものであるが、本件手形の第一裏書欄には受取人宮里新名義の白地式裏書の記載がある。

金額 三〇万円

満期 昭和四一年六月三〇日

支払地、振出地とも 東京都世田谷区

支払場所 株式会社富士銀行玉川支店

振出日 昭和四一年三月一五日

振出人 全国学童横断陸橋設置促進会常任理事 荒木辰之進

受取人 宮里新

二  被告は「全国学童横断陸橋設置促進会常任理事」の肩書を付して本件手形を振出した。しかし同会について法人設立の登記がないし、仮にこのような団体が存在するとしても、これは被告主張のごとき権利能力なき社団としての実体を備えているものではなくて、強いて法律的な性格づけをするならば、精々のところ財団法人の設立を目的とする発起人組合的なものであるのにすぎない。従って被告は組合たる同会の構成員として本件手形上の責任を免れ得ないものである。

三  よって、原告は被告に対し本件手形金三〇万円及びこれに対する満期の翌日である昭和四一年七月一日以降完済までの年六分の割合による法定利息の支払を求める。

被告訴訟代理人の主張

一  請求原因第二項の事実は認めるが、本件手形は、その振出名義の記載から明らかなように、被告が訴外全国学童横断陸橋設置促進会の代表機関たる常任理事として同会のために振出したものであって、被告が個人として振出したものではない。而して、同会は学童及び一般歩行者の安全を守る道路横断歩道橋の建設促進を事業目的とする財団法人の設立を準備するための団体として、昭和四〇年一二月に発足したもので法人設立の登記こそなされていないけれども、被告外四名の理事と事務局を置き、事務局長訴外宮里新の外五名の職員を使用し、服務規律を定め、理事の個人財産と区別して経理関係を処理して来ており例えば訴外株式会社富士銀行玉川支店に同会名義の当座預金口座を設けて銀行取引をして来たものであり、又準備段階にあるため構成員にかなりの変動があったけれども終始会の同一性を保って来ており、かように団体としての組織を備えているので、いわゆる権利能力なき社団に該るものである。従って本件手形の振出責任を負うのは同会であって、被告個人ではない。

二  抗弁として、仮に被告個人に本件手形の振出責任があるとしても、次に述べる事由により原告の本訴請求は失当である。即ち、本件手形の受取人宮里新は昭和四一年三月一二日頃当時原告会社の渉外主任をしていた訴外関口雄太郎から、これをいわゆる「見せ手形」として使うがすぐ返すから是非貸して欲しいと懇請されて、何等の原因関係がないのにその第一裏書欄に自己名義の白地式裏書をしてこれを同人に貸与した。

かくして、本件手形は同人より訴外名鉄観光サービス株式会社に「見せ手形」として預け入れされたが、宮里新に返還されず、同訴外会社から原告に譲渡されたのである。ところで右の関口雄太郎と原告との前記のような関係から、原告は本件手形が「見せ手形」として宮里新から関口雄太郎に貸与されたものであることを知りながら、即ち、本件手形の債務者である宮里新を害することを知って、これを取得したのである。従って宮里新は原告に対して本件手形が「見せ手形」であるとの抗弁をなし得る筈であり、その前者たる被告もこの事由をもって原告に対抗するものである。よって、原告の請求は失当である。(証拠関係は省略)

理由

一  被告が全国学童横断陸橋設置促進会の常任理事として本件手形を振出したことは当事者間に争いがない。

そこで、同会の存否及びこれが肯認される場合にその法律的な性質如何という点について検討する。まず、いずれも成立に争いのない、乙第一号証、乙第二号証の一、二、乙第二号証、乙第四号証、乙第五号証の一、二、乙第六号証、乙第七号証によれば、右のごとき名称の団体が存在することを認めることができ、このことは成立に争いのない甲第二号証の一、二の記載をもってしても左右されるものではなく、他にこれを動かすだけの証拠はない。ところで、この団体について法人設立の登記がないことは当事者間に争いがないが、被告は、この団体が学童及び一般歩行者の安全を守る道路横断歩道橋の建設促進を事業目的とする財団法人の設立を準備するために発足したいわゆる権利能力なき社団であると主張する。しかし権利能力のない社団といいうるためには、これが団体としての組織を備え構成員の資格、代表の方法、総会の運営、財産の管理、その他社団として主要な点が規則として確定しているものであることを要するところ、前掲の乙号各証によっても、同会に被告外四名の理事と事務局が置かれ事務局職員の服務規律が定められ、訴外株式会社富士銀行玉川支店に同会名義の当座預金口座があって銀行取引を継続して来ていることは認めうるが、構成員の資格、総会の運営、財産の管理等社団としての主要な点を確定する規則が存在することについては、何等の主張、立証がないので、結局同会が被告主張のような権利能力のない社団に該るものと認めることができないばかりでなく、右の乙第三号証及び被告の主張そのものから明らかなように、同会それ自体が最終目的の団体ではなくて財団法人の設立を志向する者がそのために尽力すべきことを約束して結成し活動を続けているところのいわば準備的、手段的な団体として、被告等同会の構成員の間に民法上の組合関係でもしているものと認めるのが相当である。従って、被告は、民法上の組合たる性質を有する同会のためにその構成員であると共に代表者である自己が代表者名義で振出した本件手形について、共同振出人の一員として他の構成員と共に合同責任を負うものといわなければならない。

二  次に本件手形の第一裏書欄に受取人宮里新名義の白地式裏書の記載があること及び原告が本件手形の所持人として満期に支払のため支払場所に呈示したが支払拒絶を受けて現にこれを所持することは当事者間に争いがない。

三  被告の抗弁事実は、これを肯認させる証拠がないので、採用できない。

四  よって被告は原告に対し、本件手形金三〇万円及びこれに対する満期の翌日である昭和四一年七月一日以降完済までの年六分の割合による法定利息を支払うべき義務がある。<以下省略>。

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